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ツイッターの140字では書き切れないけど、フェイスブックに直接投稿するような性質のものでもないやつ。

奥田民生になりたいボーイ

 

ユニコーン世代

奥田民生(52)といえば、広島出身のシンガーソングライター。同じ高校の先輩に吉田拓郎がいる。

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彼の名前を聞いて連想するものは何だろうか。真っ先に「ユニコーン」と答えるのは、氏のバンド全盛期に10〜20代を過ごした40〜50代のおじ様おば様たち (悪い意味はない) に多い気がする。頭に浮かぶのは、『大迷惑』や『すばらしい日々』といった曲たちか。「若い頃はカッコよかったんだよ、民生」

PUFFY」を挙げる人も少なくないと思う。彼らの“奥田民生原体験”というか“奥田民生像”とでもいうべきものは、バンドボーカルではなくプロデューサーとしての姿なのだろう。「奥田民生?ああ、たしかPUFFYの曲作った人じゃなかったっけ?」

 

一方、現在20代序盤の自分にとって、奥田民生といえば奥田民生でしかないのだ。生まれる前にユニコーンは解散。PUFFYは知っているけど、フロントマンとしての彼を知らない世代にとって「作曲: 奥田民生」が際立って目にとまることはない。

そもそも、若者の間で奥田民生の認知度は高くない。一定の知名度はあるだろうが、彼がユニコーンというバンドのボーカルで、みんな知ってるPUFFYのプロデュースをしたという事まではあまり知られていないように思えるのだ。むしろ曲には聞き覚えがあるけど、誰が歌っているのかは知らないという人が多いのではないだろうか。

 

 

マシマロは関係ない

こんなことをつらつらと書いているのだから、俺が奥田民生好きだということは言うまでもない。しかし振り返ってみると、どのように彼の名前を知り、何がきっかけで彼の曲をiTunesのライブラリに入れ始めたのか、全然記憶にない。そのくらいフワフワした存在なのが奥田民生なのだと思う (いい意味で) 。

それと似たように、彼の曲の特徴は、歌詞の内容がスッと頭に入ってこないこと。例として『マシマロ』('00)の歌詞を引用する。

 

雨降りでも気にしない 遅れてても気にしない
笑われても気にしない 知らなくても気にしない

君は仏様のよう 広野に咲く花のよう

だめな僕を気にしない ひげのびても気にしない
うしろまえも気にしない 定食でも気にしない

君はまるで海のよう はるかなる太平洋
たたずまいは母のよう さとりきっているかのよう

げにこの世はせちがらい その点で君はえらい
凡人にはわかるまい その点この僕にはわかるよ

君とランチをたべよう いっしょにパイを投げよう
君のスカートの模様 部屋のかべ紙にしよう
君の口出しは無用 ただ静かに見ていよう
君とともにいれるよう 日々努力し続けよう

ああ

マシマロは関係ない 本文と関係ない
マシマロは関係ない

 

ほら、なに言ってんだかさっぱり分からない。

変わり者の「僕」と、それをも気にしない「君」。人との違いなんか気に留めない二人の恋を描いているようにも解釈できる。ただ、一度聴いただけでは、韻を踏んでいるだけの、内容がいまいち理解できない歌詞に感じられるはずだ。

タイトルの『マシマロ』とは何なのか、どういう意味が込められているのか、歌詞上のトリックスターとなるフレーズなのだろうか。そんな思いで聴き始めるが、その答えは「マシマロは関係ない  本文と関係ない」。

なんじゃい、それ!

 

 

これは歌だ

しかし、これこそ奥田民生の魅力なのだ

明確なメッセージやストーリーを提示する曲は、聴く人のこころを動かす。一方で、脈絡がないようにも思える歌詞だからこそ、自分ならではのイメージや思い出をそこに組み込むことができるのが、奥田民生の曲の特徴だといえる。前者を「線路」(決められた道を進む)に例えるならば、後者は「草原」(どう進むかは“百者百様”)だ。

 

中学時代から洋楽にのめり込み始めた。考えてみると、そこに民生ファンとなった素地が見られるのかもしれない。思うに彼の曲を聴くことは、洋楽を聴く感覚に似ている。ネイティブではない俺が洋楽を耳にしても (それがどんなに好きな曲で幾度となく聴いていたとしても) 、歌詞を日本語と同じような感覚で判ることはできない。これと似た「掴みづらさ」を、奥田ソングにも感じ取れるのだ。

 

読むものでもなく、話すものでもない。歌うもの。彼は、歌詞を“言葉”ではなく“音”として捉えているのかもしれない。俺は『トロフィー』('00)を聴くと、ある旅行の帰路での光景がまぶたに浮かぶ。特急列車でぐっすり眠る友人を横にイヤホンで聴いたこの曲。車窓から見た穏やかな海と橙色の斜陽とのコントラストが忘れられない。その景色とは合いそうもない歌詞のこの曲が、なぜだかマッチした。

ぼんやりとした歌詞の持つ文脈の無さが、聴き手の曲に対する心象を規定しない本人がどのように考えているか分からないが、やはりこれこそ奥田民生の歌の力だと思う。

 

『これは歌だ』('95)で、彼はこう歌っている。

 

なんのための 歌だ これは

誰のための 歌だ これは

すごい顔で 声を枯らし

バババブバビバベブ

イェ〜イ ほかに 何も できない

 

機嫌 悪いわけじゃないよ

頭 悪いわけじゃないよ

説明するのも めんどくさいよ

バババブバビバベブ

イェ〜イ これは 俺の生きがい

 

やっぱり、何言ってんだか分からない

 

トロフィー

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  • 奥田 民生
  • ロック
  • ¥250