methinks

ツイッターの140字では書き切れないけど、フェイスブックに直接投稿するような性質のものでもないやつ。

戦争映画について思うこと

 

シャトーブリアンからの手紙』(原題: La mer à l'aube)を観た。2011年の仏独合作映画だ。

 

トーリーが簡単にまとめられているので、まず下のリンク先に目を通してほしい。

http://www.moviola.jp/tegami/story/

(配給会社の運営するサイトなので、ネタバレ防止網を張った説明になっている。だが、そもそも史実に基づいた作品だから、ネタバレなんてものは存在し得ない。本作は、思いがけない展開を期待して観るべき類いの映画ではない。さらには、「彼らは果たしてヒトラーの命令に背けるのか」という見出しが掲げられているが、この映画が伝えようとしている趣旨とはかけ離れている。)

 

 感想

報復の的として処刑される収容所内の「政治犯」たち(フランス人)。ナチスの姿勢に忌避感を抱きつつも、上からの強い流れに逆うことのできない現地のドイツ軍司令官たち。占領軍からの命令に反発を示すも、それを受け入れざるを得ないフランス人行政官。自らの手で人を殺すことに恐怖するドイツ軍人の青年。

とてつもない理不尽への苦悩を、複数の視点を通して第三者的に写し出す本作。劇中では姿を見せない巨悪の独裁者が作り出す大きなうねりが、そこには感じ取れる。強力な忖度の激流の勢いに、誰も立ち向かうことができない。全体主義の恐ろしさを静かなタッチで強烈に見せつける。

映画の最後には27人の人質たちが、淡々と銃で処刑されていく。感動的な音楽も、特別な演出もない。ただ淡々と、不条理を極めた死だけが生み出されていく。その死を確実なものとするため、絶命したであろう彼らの頭をピストルで撃ち抜く「作業」が続く。パン、パンという気が抜けるほど軽い銃声とともにその光景を映すロングショットには、どんなに凄まじい戦闘シーンよりも純粋で鮮烈な絶望を突きつけられた。

 

 

同化と異物化

注目しなければならないのは、この映画を監督したのがドイツ人だということだ。フォルカー・シュレンドルフは、79年にパルムドールを受賞した『ブリキの太鼓』の監督で広く知られる。この映画もまた、ナチスの侵攻で人生を左右される少年の姿を描いたものだ。

戦後ドイツでは、ナチス時代の負の記憶を国民が共有し、今に至るまで忘却することも修正することもなく、誠実に受け止めてきたように思う。「国のため命を賭した父・祖父たちを否定するのか」。映画で加害者としての姿を描いても、ドイツでそんな議論はほとんど起こらないのではないか。その「国のあり方」自体が絶対的に間違っていたという明瞭な認識を、皆が共通して保持してきたからだ。

 

ドイツと単純比較はできない。そうだとしても、一方で日本はどうだろうか。加害者目線に徹して第二次大戦を描いた映画は、ほとんどない。戦争の否定は試みるが、その手法はドイツと完全に異なる。すなわち、先祖の戦死を悼むということだ。

2013年末、すでにベストセラーとなっていた『永遠の0』が映画化され、大ヒットした。家族を残した父が、若い特攻隊員の身代わりとなり、米艦に向かって突進していく。自分ではどうすることもできない潮流に呑まれた軍人の悲劇的な末路。その死を悼むことで、先の大戦の不条理を伝える……という形なのだろうか。

しかし、これでは「敗戦国の悲劇」を表現したに過ぎないのではないかと感じる。物質的に疲弊し、後がない状態で大国アメリカに立ち向かっていく。戦争邦画には、こうした構図が多い。だが、その内容は、「無念さ」を伝えるにとどまっているのだ。

どこか賛美の意を含有しながら、戦争の悲惨さを伝える。日本では、こうしたアプローチの戦争映画がヒットし、評価を受けるのだろう。家族愛や自己犠牲といった、過去と現在の日本に通底し得る美徳。それらを描くことで当時への共感を呼ぼうとする。つまり、いかに今の価値観と“同化”させるかが重要視されるのだ。そこには、一種、戦前からの「連続性」のようなものを感じる。

加害者であった過去を痛烈に示し、当時の自国体制を客観的に否定することで、「連続性」を断ち切る。こうした考えに基づく映画が評価されるドイツとは真逆だ。同国では、いかに“同化”を図るかではなく、いかに“異物化”するかに力が注がれているように思える。

 

 

このエントリーを書くにあたって、興味深い記事 (http://lite-ra.com/i/2016/05/post-2241-entry.html) を見つけた。孫引きになるが、映画監督・松江哲明の話を引用する。

日本は加害者になった映画を上映しないんですよね。(中略)  日本人がひどいことをしているところを描いているに違いない、みたいなことで上映しないというか、抗議を恐れて自粛っていう...。僕はその雰囲気がすごく怖いんです。